メンタル不調と思われるAさん
Aさんの状況
最近体調が優れないAさん。以前より出社時間が遅くなり、勤務中もぼうっとしてしまうことがあります。元々Aさんは真面目で仕事熱心で同僚からの信頼も厚く、職場のムードメーカーのような存在。プライベートでは最近マイホームを購入して、通勤時間は30分近く長くなりましたが、ますます仕事にも意欲的に取り組んでいました。そんなAさんの仕事ぶりが評価されて、新規プロジェクトのリーダーに抜擢されましたが、一か月が経過したあたりから様子が変わってきました。頭痛やめまい、吐き気がして、仕事を頑張りたいと思っているのに、気が進まなくなることがあります。内科を受診したところ、「問題なし」と言われていますが、明らかに体調が優れない日々が続くので不安に感じています。
アドバイス
既にAさんは内科を受診して、検査の結果「問題なし」とされており、身体疾患の可能性はないようです。しかしマイホームを購入したこと、それにともなって通勤時間が30分近く長くなったこと、また新規プロジェクトのリーダーに抜擢されたことなど大きな変化を立て続けに経験しています。実はこうしたマイホームの購入や昇進といった良い変化もストレスとなるため、Aさんには相当のストレスがかかっているものと推察されます。ストレスが蓄積しますと、億劫な感じや気分の落ち込みの他、頭痛やめまい、吐き気など身体的な変化も発生します。比較的軽度のうちにストレスへの対処を行えば、すぐにこうした変化はなくなります。しかしそのままにしておくとさらに状態が悪化し、十二指腸潰瘍やうつ病など、心身の疾患へと発展する可能性があります。こうした疾患を発症した場合、速やかに専門医療機関の受診が必要です。
また疾患発症まで至らなくても、例えば遅刻や欠勤、明らかな生産性の低下など「いつもと違うな」という変化が見られれば、こうした医療機関の受診による早めの対処が推奨されます。ちなみにAさんのようにストレスによる頭痛やめまいなどがある場合、ストレスの専門医は精神科・心療内科なので、精神科・心療内科の受診をお勧めします。
【医療機関等での対処】
Aさんの様なストレスによる心身の変化は、医師による治療を行うと共に、心理カウンセラーによるカウンセリングで、様々なストレスが蓄積していることに気づくことから始まります。そうして、主治医と心理カウンセラーと一緒に気分転換やストレス対処法を考え、日常生活で実践することで、ストレスを軽減させていくことができます。
【ストレス対処法】
ストレス要因に対処することを「ストレス・コーピング」と言い、次のようなものが挙げられます。
(1) ストレス要因を除去・軽減する 例)業務量を調整する、異動する
(2) ものの見方を柔軟にする 例)別の視点から捉えてみる
(3) ストレス反応を鎮める 例)腹式呼吸を行う、リラクセーション/筋弛緩法を行う
(4) 社会的なサポートを得る 例)誰かに相談する
今回は、(2) ものの見方を柔軟にすると、(3) ストレス反応を鎮める、について具体的にお伝えします。
(2) ものの見方を柔軟にする
〈状況〉朝の出勤時、会社のエレベーターの前で上司に挨拶したが、無視された
このような場面で、例えば「自分のことが嫌いなんだ」と捉えると、上司との会話にストレスに感じるようになり、自分からコミュニケーションを避けるようになる可能性も出てきます。
そこで、上記の状況を別の視点から捉えてみます。例えば、「上司は考え事をしていて、たまたま自分の挨拶が聞こえなかったのかもしれない」といった具合です。そして別の捉え方をしてみた時に、自分の感情がどのように変化するのかを自分の中で振り返り、ストレスを感じる具合を確かめていきます。
「自分のことが嫌いなんだ」と捉えると、怒りや不安などの感情が強まってしまいがちですが、例えば、「考え事をしていて聞こえいなかったのかも」などと捉えると、怒りや不安は弱まるのではないでしょうか。すると、「次はもう少し大きい声で挨拶をしてみようか」などのように別の行動に繋げやすくなります。
★別の捉え方を試みる際は、「○○さんならこの状況をどう考えるだろう?」など、他の人の立場に立ってみるのもいいでしょう。
(3) ストレス反応を鎮める
ストレスにより緊張した気持ちや身体を緩めてリラックスすることでストレス反応を鎮めることができます。気持ちをリラックスさせる方法と、身体をリラックスさせる方法があります。
(気持ちのリラックス)腹式呼吸
息を吸った時に腹部が膨らんでくるのを感じながら、ゆったりと大きく深呼吸を繰り返します。回数の目安としては、1分間に数回~5回くらい呼吸をします。おへその周りに手を当てると、腹部が膨らむ感覚を捉えやすくなります。
(身体のリラックス)リラクセーション/筋弛緩法
筋肉の緊張を緩め、身体をリラックスさせます。肩、首、腕、足などに意識的に数秒間力を入れ、ゆっくりと力を抜いていきます。力を抜いた時、筋肉の緊張や力みが抜けていく感じを「味わう」ことがポイントです。
ストレス・コーピングを実践するにあたり、大切なことは「一つの対処法のみに頼らない」ことです。一つの対処法を身につけることで、その場を対処できたとしても、これまで以上にストレスが強まった場合に乗り越えられないこともあります。そのような時には、「一度その場を離れ、腹式呼吸をしてみる」、「信頼できるだれかに相談してみる」など、複数の対処法を試みることが有効なことがあります。
さらに、気分転換の方法に関しても、例えば、「私にとって趣味の旅行が気持ちをリフレッシュさせる唯一の方法」という場合では、仕事が忙しくて旅行に行けない状況になると、仕事の負担がストレスになっていることに加えて、旅行に行けないこともストレスに感じられるようになってしまうかもしれません。自分にとって気分転換になる方法のレパートリーを日頃から増やしておくことも大切です。
「まとまった時間を使って取り組んでいけること」、「仕事帰りなど日頃のちょっとした時間で取り組めること」などの視点から、これまで取り組んでいなかった自分なりのストレス対処法を見つけていけるように、身近な物事にアンテナを張っていきましょう。